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♦2020/10/02

着物のある情景 ~神無月・10月~

シネマの中の着物

今は亡き女優、夏目雅子さん。彼女の美しい容姿や独特の存在感は、スクリーンから 香り立つようで、まさに”大輪の花”。多くのファンを魅了しました。
代表作といわれる作品は、『鬼龍院花子の生涯』や『時代屋の女房』などですが、こ れらの映画の印象的なシーンでは、不思議に彼女は和服を着ています。『鬼龍院花子の 生涯』で最も有名な台詞はご存じ「なめたらあかんぜよ」。これは夏目さん扮する松恵 が、喪服を着てタンカを切るクライマックスです。あの壮絶なまでの美しさは、喪服姿 の女性美を見事に表しています。
ところで、もう一本の映画『時代屋の女房』で、彼女がどんなシーンで着物を着てい たか記憶にない方もいらっしゃるかもしれませんね。実は「時代屋の女房」というタイ トルがスクリーンにパッと出るとき、その背景に、古道具屋「時代屋」の奥に着物姿で 正座した夏目さん(役名、真弓)が映ります。そのほかにも、真弓が家出をした先の盛 岡で”のぞきからくり”で遊ぶ場面や、青年と擦れ違う踏み切りのシーンでも和服で登 場します。真弓の着物姿は、物語になんとも不思議で浮世離れした雰囲気を作り出す小 道具になっているのですね。
さて、シネマの中の着物といえば、重要な役割を担っているのが撮影所の衣装担当で す。係は主役や準主役の役者さんのために、シーンごとに衣装の候補を数枚用意しなく てはなりません。そのため、いくらストックがあっても時代背景にマッチして、しかも イメージにビビッと来るものを探すのは大変な作業なのだとか。
秋の夜長のビデオ鑑賞。ときには役柄や時代に思いを馳せながら、じっくりゆっくり 着物を眺めてみるのも面白そうですよ。

(エッセイ・羽渕千恵/イラストレーション・谷口土史子)

 

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